産業や市場の構造は恒常的で安定的に見えるようであるが、時間とともに変化してゆくものである。そして、従来のやり方では通用しなくなってきたとき、構造変化の兆候を早期に捉えることが、イノベーションの第四の機会である。
構造変化は、産業内にいる企業にとっては、変化への対応に追われ脅威と映るが、外部の異業種企業にとっては参入のチャンスとなる。自動車業界で見ると、ガソリンエンジンにかわる電気自動車の出現という市場の変化に対して、異業種のテスラの参入は良い例である。従来の自動車メーカーは、古くからある系列販売店や多くの機械部品メーカーとサプライチェーンを構成しているため、これを簡単には解除できないこともあり、変化への対応が遅れて異業種からの参入を許す結果となっている。
一方で、テスラはそのようなしがらみが無く、過去に投資した設備の償却という負担もないため、現時点で最適な部品や設備を採用することで、既存メーカーに対する生産的な優位性を構築して行くことができる。
では、産業構造の変化の兆候はどう見付けらるのだろうか?
ドラッカーは、次のような場合に変化は確実に起きるとしている。即ち、
- ある産業が経済成長や人口増加を上回る速さで成長するとき
- 産業の規模が2倍になるとき
- いくつかの技術が合体したとき
- 仕事の仕方が急速に変わるとき(現在のコロナ問題に伴うテレワークの拡大等)
- 世界的な規制動向により、産業や市場がその対応をしなければ成立しなくなったとき
その様な時に、構造変化が起きるので、その兆候を見逃すことにないように中小企業は注意し、兆候を見付けたら準備をすることである。
産業構造の変化を捉えるイノベーションが成功するには、一つだけ重要な条件がある。それは、単純でなければならないということである。複雑なものは上手くゆかない。
市場の変化は、世界的な事業環境の変化、例えば、地球温暖化対策のための規制の変化によるものから、後稿で述べる第五の機会である「人口構造の変化」と重複した機会まで、いろいろな要因が重なっていることに留意しなければならない。
例えば、高齢化に伴う要介護老人の増加は、介護産業市場の規模を大きくし、その結果多くの企業が参入し、新しい介護サービスを生んできていることからも明らかである。
技術の合体でみれば、スマートフォンは、パソコンと電話が合体し、新しい価値を生み、既存の携帯電話を駆逐して、新しい市場を生んだ例である。任天堂やソニーは、ゲーム市場を家庭まで開拓、更にスマートフォンアプリで、屋外まで市場を広げた。
近年は、デジタル技術を活用した市場開拓が進んでおり、IT技術を持つ中小企業にとっては参入の機会が多くなっている。また身軽な中小企業であれば、上記兆候が掴めなくても、産業や市場の構造変化により、伸びてゆく関係企業の近くにいれば、その動きに注意し変化を読み取り、自社の対応をすることも可能である。
第五の機会である「人口構造の変化」は次稿で説明する。