落合克弘
落合克弘

㈳技術知財経営支援センター 理事

技術者や幹部に競合特許の説明をするときに意外と苦労するのが特許の請求の範囲(権利範囲)を伝えるときです。しかも、出願経験のある方は、請求の範囲を読めるだけに誤解をしておられるケースを見かけます。

請求の範囲とは、私はこういう技術の権利を持っています、ということを文章で記載したものです。そして、請求の範囲は、個々の技術である構成要素に分解できます。ひとつの構成要素では権利にはなっておらず、すべての構成要素を組み合わせることでひとつの権利(請求の範囲)となっています。

私の経験したケースでは、競合の特許の請求項に記載された構成要素の一部だけを見て「われわれの製品は侵害している!」と思い違いしている幹部の方がおられました。たとえば、競合特許の請求項の構成要素がA、B、C、Dで構成されていることに対して、B、Cが自社の製品の構成であるため「競合特許に先を越されてしまった、われわれの製品は競合特許を侵害している!」と考えてしまっていました。たとえば、A(消しゴム)、B(星形の)、C(鉛筆)、D(消しゴムは鉛筆に固定されている)としましょう。競合の特許は「消しゴムと星形の鉛筆とを有し、消しゴムは鉛筆に固定されている」ものとなりますが、「星形の鉛筆」を作っている自社は競合特許を侵害していると思ってしまったわけです。

特許はオールエレメントルール、つまり全ての構成要素が同一である場合に、特許と対象物(自社の製品)が同一である、と考えるところ、一部の構成要素に記載されているだけで、「同一の箇所がある」=「特許と自社製品が同一である」、と思い込んでしまっていました。ここは、大変解りにくいところらしく、丁寧に、オールエレメントルールを説明してもなかなか理解されませんでした。この傾向は、忙しく特許について熟考する時間をとりにくい幹部ほどオールエレメントルールを理解していただくのは難しいようです。請求項の一部に同じ内容の技術が記載されていたら、それでもうアウト!と思ってしまうようです。

先ほどの例で言えば、星形の鉛筆に消しゴムが固定されていなければ競合特許を侵害していることになりません。

では、どういう風に特許の請求項を理解していけばよいでしょうか。私の場合は、請求項の段落あるいは句読点(。 、)ごとの一文にきって、その一文ごとに該当しているかどうかを○×をつける方法を推奨しています。ほとんどの技術者の方はこの方法で説明すると、請求項の権利範囲を正確に把握してくれるようです。また、これをエクセルなどの表にして、請求項の構成要素の各一文を一セルごとに記載し、その横のセルに○や×を技術者に記載させ、その横のセルに×の場合の理由を記載させると、誰でもその表を見ることで、正確に該非を判断できますし、表の作成者が勘違いしている場合の指摘も容易となります。

請求項の解釈は本来なら弁理士の鑑定などが必要ですが、全ての特許を高額な鑑定費用を支払って鑑定してもらうわけにはいきません。少なくとも、文言上で同一であるかどうかの判断は、上記の表で判断できます。そこで請求項の構成要素がまったく違う、あるいはもともと請求項の構成要素を備えていない、などのことがわかれば、同一ではないと判断できますので、あわてることもないでしょう。まず第一歩として、特許の請求項を段落や句読点で分解して、表にして確認することをお勧めいたします。

なお、この方法は簡易的な方法ですので、重要な製品や競合特許については特許事務所や知財担当に相談するのが良いでしょう。