新家達弥

㈳技術知財経営支援センター 会員

労働生産性向上について

 前稿で、次稿は生産性向上のアプローチについて述べるとしていたが、その前に4つの生産性の定義の中で、本稿の対象となる「労働生産性」について少し説明を加えたい。
 生産性の定義は、成果物/投入した資源=アウトプット/インプットであるとし、生産性を上げるには、分子の成果物 付加価値を大きくするか、分母の投入資源量を少なくすることであると述べた。
 労働生産性は、投入資源である労働力(単位時間当たりの労働投入)1単位に対してどれだけ生産価値を産めたかを示すものであり、生産量という物的な量で表す場合を「物的労働生産性」、付加価値を定量評価することが難しいことからモノの金額で表す場合を「付加価値労働生産性」と言い、一般的な経済指標で単に労働生産性と言う場合は後者を指していると述べた。そして付加価値労働生産性は付加価値(粗利益)÷従業員数で表され、特に製造業の場合は粗利益は売上げから製造原価(人件費を含む)を差し引いて算出するため、労働力の有効活用が重要となる。
 このため、労働力が遊ばないように多くの資本を装備すると、労働力の回転率が上昇し、労働生産性を高められる。しかし資本生産性は資本(生産のための機械や貨物自動車などの設備)1 単位に対してどれだけ価値を高めたかを示すものであり、資本生産性=生産量÷有形固定資産で表されることから、資本生産性は低下することに留意しなければならない。
 ところで、自社の労働生産性を向上させるには、全員が共有する目標を定めて取り組む必要があるが、このためには、どの生産性の要因をいつまでに、どれだけ高めたいかを経営者だけでなく現場の関係者も納得した実行計画を作ること、即ち取り組みの5W1H を全員が共有していることが重要であり、また現場の関係者にも利のあるものでなければならない。
 一般に製造業では労働生産性は、製造現場での改善が主となるため、小集団活動などボトムアップによるところが大きいが、効果を上げるためには改善が推進できるような条件整備やマネジメントが重要となる。
 例えば、ドラッガーは労働の生産性を向上させることについて、生産性の要因となるものをきちんとマネジメントすることが必要と述べている。ドラッガーは生産性の要因は、①労働、資本、原材料、②知識(知識労働者)、③時間、④プロダクトミックス、⑤プロセスミックス、⑥自らの強み、⑦組織活動の適正さ、活動間のバランス、の7 つがあり、これらをマネジメントしてゆく必要があるとしている。
 特に、価値労働生産性を向上させるうえでは、「人の生産性」をうまくマネジメントすること、人材を育成し活用するマネジメントが大切となる。 日本でも昔から「人は石垣、人は城」とか「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。」「物をつくるまえに、人をつくる」など多くの格言があるように人を育成し、活かして戦力となるようにするマネジメントの重要性は認識されている。
 また、ドラッガーは労働生産性を「知識労働生産性」と「肉体労働生産性」にわけており、
「人の生産性」をマネジメントすることが第一で、特に「知識労働の質」を高めること、即ち知識労働者のマネジメントが重要になるとしている。 そしてこの知識労働者の生産性を高めるためには、知識労働者の特性を理解しておくことが必要であり、知識労働者は専門性が高いがゆえに、一人では仕事の全てはできないため、専門家同士がチームを組み、お互いの知識を活用し合うことで力を発揮することとなり、この様な環境をマネジメントする必要があるとアドバイスしている。
 また、仕事に集中できるように「時間」をマネジメントすることも生産性を向上させる上で欠かせないと述べ、生産性の向上について、マネジメントの重要性を強調している。
 労働生産性を向上させるには、上記のように人を含めて種々の要因を考慮しマネジメントすることが大切であり、生産性の向上を実現するためにも経営層はマネジメントをおろそかにしてはならない。中小企業では知識人材は限られていることが多いが、その場合は外部の知識を活用するマネジメントも必要になってくる。

次稿で生産性の向上のアプローチについて紹介する。

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