新家達弥

㈳技術知財経営支援センター 会員

生産性向上のアプローチ

 生産性はアウトプット(成果物=付加価値)/インプット(投入した資源)と定義されている。この生産性を向上させるアプローチとして、一般的には改善的アプローチと革新的なアプローチがあり、インプットの分母を少なくするアプローチとアウトプットの分子を大きくするものとして、以下に示すようにそれぞれ二つある。(参照;伊賀泰代「生産性」、ダイヤモンド社)
 ①改善による投入資源の削減;製造現場での作業の見直しやムダ削減、間接部門での書類削減やルーチンワークのIT化による改善などの労働時間低減などのコスト低減
 ②革新による投入資源の削減;製造現場での自働化・ロボット化や間接部門での海外コールセンター活用などによる組織やプロセスでの大幅な見直し・改革などビジネスプロセスの再構築や国際分業化による投入資源の削減。
 ③改善による付加価値の増大;製造現場での、作業スキルアップによる付加価値の高い製品づくり、間接部門での商品デザインの高級化やそれに伴う価格アップなどによる価値増大。
 ④革新による付加価値の増大;新技術・新素材の開発 活用による画期的商品設計での高付加価値製品化、ネットなどを活用した新しい顧客訴求型ビジネスモデルの構築などによる価値増大。
 ここで、①及び②は、従来の日本企業が得意としていた分母(投入資源=労働者数、労働時間、資本、原材料など)を削減するアプローチと言える。
 例えば、①のムリ・ムダ・ムラを見つけて作業や材料を削減する3M 活動や現場の問題を地道に改善してゆくボトムアップ型の小集団活動などは、日本企業の得意とするところであり、これを伸ばしてゆくことで成果を上げた企業は多い。しかし企業を取り巻く経営環境の変化により、このアプローチが以前ほど有効に働かない場合もあり、このアプローチだけに固守することの無い様にしなければならない。
 一方で、社会動向や顧客の変化により、業務の中に新たなムリ・ムダ・ムラが生ずる状況が出現することは多々あり、作業の見直しやムダ削減のアプローチの必要性 有効性はなくなることはなく、永続的に改善や見直しの取り組みが必要であることは言うまでもない。例えば、カイゼンの6ステップである工程の最短化や同期化、不良撲滅・歩留まり向上などの改善活動は直接部門だけでなく間接部門においても不断の取り組みが必要であろう。
 また②のアプローチでは、例えば生産工程の省力化を図る自動化 ロボット化があり、一部の業種や企業ではこれに積極的に取り組んで成功し、一時期には日本はロボット大国と言われた。またグローバル化に対応するため事業の海外展開や組織の改革も推進してきており、投入資源の削減の点では一定の効果を得え、ノウハウを持つ企業は多い。特に近年ではIT 技術の進歩により、カメラに代表される視覚認識技術など高度なセンシング技術や生産//物流情報のリアルタイム管理、ロボットの高機能化などにより、従来困難とされていた作業や管理の自動化が実現できるなど、更なる投入資源削減のアプローチも可能となってきている。このような自社を取り巻く環境を分析して、一歩進んだアプローチを検討している企業が生き残ってゆく。
 しかしながら、現在の経営環境においてはこれらの資源の削減アプローチだけでは十分な成果を得ることに限度があることも事実であり、そのために、生産性の分子である「付加価値の増大」のアプローチも合わせて推進する必要がある。
 まず、取り掛かれるのは③の「改善による付加価値の増大」のアプローチである。顧客ニーズにフィットした製品開発では、地道なニーズ把握とそれに基づく製品の差別化設計やデザインの開発、そしてそれを生産工程で安価・迅速に実現させる製造技術やプロセスの開発などを推進することで、現状資源のままでも改善された方法や手順により製品優位性を強化して、売り上げ向上やリードタイム短縮、販売機会の増大などで粗利の向上が図れる。
 なお、付加価値を評価するものとしては生産量などの物的な量でなく、利益(粗利)を用いることは前稿で述べたが、付加価値の増大を狙ったアプローチではこの利益が増大する必要がある。単に売り上げを増大してもそのためのコストも増加して利益が出ないのであれば意味をなさない。売上げよりも「利益(粗利)」の増大を重視することが重要である。利益の増大と付加価値の増大は密接に繋がっている。
 一般に利益を上げるためには、次の方法がある。a) 魅力をつけて販売単価を上げる、b) 新規顧客を開拓し販売数量を増やす、c) 変動費・人件費を下げる、d) 無駄な経費を削減する、e) 他社にない新製品を売り出す、等である。
 この「利益(粗利)=付加価値」を大きく増大する方法として、④の革新的アプローチがあり、これに取り組む時はイノベーションを起こす戦略が有効な場合が多い。
 イノベーションを実践することで、 a)であれば顧客へのニーズ対応強化やブランド品化に、b) であれば新機能製品による新分野進出や新顧客の創出に、c)やd)であれば革新的プロセス//工法の開発による高効率化、原価低減化や高品質化に、e)であれば今までにない新製品の開発による新機能//高性能化での他社差別化に、寄与すると考えられる。
 このためにも、イノベーションを起こす戦略を持ってアプローチを成功させてほしい。
なお、イノベーションには種々あり、自社に合ったイノベーションは何かということについては、以前に投稿したものがあるので参考にして頂きたい。
 また生産性向上させるためには、自社で検討すべき分子、分母のパラメータが何であり、その中のどれを対象にアプローチするかを決めることも重要である。自社の強みと機会を活かし、利益増大に効果を生むアプローチを成功させるために、社内外の知見を活用し良く検討して取り組んで頂きたい。

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