新家達弥

㈳技術知財経営支援センター 会員

生産性向上の改善型活動例

 前稿で生産性の向上では、従来の日本企業が得意としていた分母を削減する改善活動によるコスト削減や革新的なビジネスプロセスの再構築や国際分業化の導入などの投入資源の削減だけでなく、分子を拡大する作業プロセスや販売手法の工夫等の改善及び画期的な商品設計や斬新的なビジネスモデルの構築など付加価値を増大するイノベーションを含めたアプローチが必要であると述べた。
 即ち、従来の改善型の3M(ムリ・ムダ・ムラの削減)などの視点も必要であるが、イノベーション、特に技術的イノベーションとともに日本企業が従来は取り組みが手薄であった非技術的イノベーション、例えばビジネスイノベーション(アップルのビジネスモデルに見られるイノベーションなど)の視点でアプローチを推進してゆくことも必要である。
 ここではイロハであるので、まず改善型や革新型の方法について確認してみたい。

改善活動の原則
 改善活動を効果的に行うポイントは、まず、「徹底した現状の調査分析」と「改善方法の適切な選択」を行うことである。即ち、「何が問題なのか」「何を改善すべきか」を明確にすることで活動のやるべき方向が定まり、解決手段の適切な選択や実行に繋がる。
1) 徹底した現状調査と分析:現在の作業や業務の内容(作業量、作業内容、責任/担当の分担など)を出来るだけ定量的に調査し把握する。そして、現状の問題点や改善点を抽出・分析する。この時に作業フローなどの詳細をドキュメント化して業務プロセスが可視化でき、データ化できていることが重要である。また、作業/業務日報や小集団活動報告などの情報も確認し活用する。なお分析では、なぜなぜ分析や「Who-What-How-Why」を突き詰めて行くことが有効である。
 データや情報を分析して改善点を検討する際は、「ムリ・ムダ・ムラの3M 改善」や「カイゼン6ステップ」「改善の 4 原則(ECRS)」の視点からも取り組むことが良い。そして、効率化すべき作業や業務プロセス、整理すべき業務などを明確にしてゆく。

2) 改善アプローチの適切な選択:現状分析から改善点や改善内容が明確になったら、それに合わせた改善アプローチを選択する。代表的なアプローチは以下に示す。
① ECRS の改善原則;ECRS とは、排除(Eliminate)化・結合(Combine)化・交換(Rearrange)化・簡素化(Simplify)を示し、この順に検討して行く。即ち、現在は不要となってきている作業や内容または不要とすることができる作業や内容などを、まず削減化し、次に結合化/一体化、交換化をしてゆく。そしてより簡単なもの、効率的なものに代替させる。製造ラインの自動化や省力化などのアプローチもこの原則で実施する。留意する点は、自社にとっては改善効果がでるが、アウトプットの質の低下や顧客などからの苦情や不便が生じるリスクがないかを注意することである。顧客の視点からのチェックは忘れてはならない。
② 標準化;定型的、反復継続的な作業や業務プロセス、高度な判断や創意工夫などが必要とされない作業・業務プロセスでマニュアル化や自動化などが可能な場合に実施する。留意する点は、作業効率や品質は安定するがマニュアル化が形骸化し、状況変化への臨機応変の対応ができなくなるなどのリスクに気を付けることである。
③ システム化、IT化;ルーチンワーク的業務で、作業の途中で他者による判断や指示などの意思決定が求められなく、データ集計や入力チェックなど IT 化/自動化が可能な場合。留意する点は、コスト低減や生産性の向上が図れるが、業務処理内容がブラックボックス化して PC やシステムに不具合が生じると業務プロセスが停止するなどのリスクがある。場合により、バックアップシステムや人手処理対応の対策を検討しておく必要がある。
④ 集約化・一本化・統合化;同じルールに従って処理する類似業務を複数の部署で分散して行っているものを一つの部署に集約することで一括処理が可能な場合。主に人事・総務・経理などの業務が対象。留意する点は、コスト低減や業務の品質向上は図れるが、画一的処理となるため、各部署に対するきめ細かな対応・品質が下がるリスクがある。
⑤ アウトソーシング化;社内処理しなくても問題の無い単純業務や方針が確定して意思決定が必要ない業務で、外注することで人的リソースを有効活用できる場合。留意する点は、社内人員がコア業務に専念でき、雑務の削減を図れるが、情報漏洩や業務ノウハウの蓄積が出来ないリスクがある。
⑥ 冗長化・バックアップ化;特に大きな事故や損害可能性の高いものや安全性に絡むものは余裕を持たせることも必要である。このために性能や機能をギリギリなものとせずに安全率を持ったもの、システムであればバックアップを用意しておくことも検討する必要がある。

3)改善アプローチでの注意点
① 現場とのコミュニケーション;改善内容やスケジュールは現場の意見を聞き、納得したものを推進する。特に改善の目的や目標値は共有し、現場業務の実態や繁忙期を配慮する。
② 計画的実行;長期的視点で余裕を持ったスケジュールの設定や短期的結果と長期的結果の達成期間の優先順位づけや推進計画化。
③ IT ツールの活用;IT ツールを使うことで活動を効率的に推進できる。クラウドツールやサービスも充実してきているので有効活用を図る。

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