新家達弥

㈳技術知財経営支援センター 会員

生産性とは

  近年、「生産性の向上」の記事が良く目につく。中小企業の経営者や管理者にとっては、人手不足の中で、働き手を確保するために、収益を向上させ,かつ従業員の賃金アップを図ることが求められており、それを現有人員で実現するためには生産性の向上が不可欠で、生産性の向上を図ることが重要な経営課題の一つになっている。

 所で、一口に「生産性向上」というが、どの生産性を言っているのかと、問われて答えられるであろうか? 本稿は「いろは」であるので、まずその定義から確認して行きたい。

 生産性の代表的な定義は、JIS Z8141では、「 投入量に対する産出量との比」と定義している。

 ヨーロッパ生産性本部は「生産性とは生産諸要素の有効利用の度合いである」と、ウィキペディアでは「生産活動に対する生産要素(労働・資本など)の寄与度、あるいは、資源から付加価値を産み出す際の効率の程度の事を指す」としている。

 端的に言うと、アウトプット(成果物)/インプット(投入した資源)で表されるもの、即ち 労働・設備・原材料などの投入量と、これによって作り出される生産物の産出量の比率である。そして何を基準に評価するかで下記の4種類がある。

① 資本生産性:資本(生産のための機械などの設備)1単位に対してどれだけ成果物(価値)が産めたかを指し、資本生産性=生産量÷  有形固定資産で表す。

➁ 労働生産性:労働力(単位時間当たりの労働投入)1単位に対してどれだけ成果物(価値)を産めたかを指し、その際に生産量を物的な量で表す場合を「物的労働生産性」、金額(付加価値)で表す場合を「付加価値労働生産性」と言う。一般的な経済指標で「労働生産性」と言う場合は後者を指す。関係式は、物的労働生産性=生産量÷労働量(従業員数)、価値労働生産性=生産額÷従業員数=(生産量×製品価格)÷従業員数、付加価値労働生産性=付加価値額÷従業員数となる。なお、付加価値額としては粗利を用いるのが一般的である。

➂ 全要素生産性:全要素生産性=生産量÷全ての生産要素の投入量、または生産量÷((労働+資本+原材料等)×合成投入量)で表す。全要素生産性とは原材料、労働、資本などすべてのインプットを対象としてどれだけ成果を出したかを評価する時に用いる。全要素生産性(Total Factor Productivity、TFP)の略称。 経済成長(GDP成長)を生み出す要因のひとつで、資本や労働といった量的な生産要素の増加以外の質的な成長要因のこと。 技術進歩や生産の効率化などがTFPに該当する。

④ 国民経済生産性:アウトプットとしてGDPを、インプットとして就業者総数を用い、各国間の国際比較において使用される。

これらの中で政府が推進している「一億総活躍社会」の実現のための「働き方改革」との関係では、労働生産性の向上が注目されている。そしてこれからは「肉体労働生産性」の向上から、「知識労働生産性」の向上に努めるべきだとの意見が強くなっている。即ち個人及び組織の知識を活用した生産性の向上が一層求められ、重要なテーマとなっている。

いずれにしても、働き方改革に取り組む企業は、生産性を上げるためは、売り上げ(利益)などのアウトプットを大きくするか、労働などの投入資源量/インプットを少なくすることが求められている。

即ち、生産性(=産出量 (output) /投入量 (input))の向上のためには分子を大きくし、分母を小さくすることであるが、企業によって分子、分母の対象となるパラメータが違うので企業の状況に合わせた対応が必要となる。

また、働き方改革に取り組む企業は、働き方改革関連法の3つのポイント、「時間外労働の上限規制の導入」、「年次有給休暇の確実な取得」、「正規・非正規雇用労働者間の不合理な待遇差の禁止」を実現させることであるが、次の課題への対応も必要と考えられる。

(a) コストアップ:仕事内容の見直し、就業規則の再整備、従業員への周知活動などが求められ、それらに費やすコストがかかる。また労働時間を抑えながら生産性を上げるためにIT設備の導入など投資をしなければならないケースも出てくる。

(b) 生産性の低下:時間外労働の上限規制に従い、単純に労働時間を短縮するだけではこれまで通りに仕事が完遂できなくなり、生産性はむしろ低下し、競争力も落ちていく恐れがある。これまで従業員の勤勉さや恒常的な長時間労働に頼ってきた企業ほど、その傾向は強く、対策が必要である。

(c) 人件費の増加:生産性を確保するために従業員の増員が必要になれば、結果として人件費が膨らむことになり、一方人を雇わない場合、アウトソーシングに頼らざるを得ないケースも出てくる。また同一労働同一賃金化に伴い、非正規雇用者に対する人件費も増加する。

そして、これらの課題の対応を含めて企業に合った生産性向上のアプローチを推進することが必要となっている。

(次稿では、アプローチのパターンについて述べる)

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