新家達弥
新家達弥

㈳技術知財経営支援センター 監事

ドラッガーは、イノベーションを実現するためには、「起業家戦略」が有効であるとしている。これは従来の多角化や統合化などの事業戦略とはやや性質が異なる。
起業家戦略には次の四つがある。① 総力戦略、② ゲリラ戦略、③ ニッチ戦略、④ 価値創造戦略で、これらを選択あるいは組み合わせて、一つの戦略とすることが重要となる。
四つの戦略について以降に述べるが、その前に、まず自社の事業ドメインを定義しておく必要がある。それは、この定義によって、イノベーションの機会への気付きの範囲が大きく変わり、ニーズや事業環境変化に対する気付きの感度範囲も広がって、イノベーションの機会を実現する事業の戦略にも影響する。
では四つの戦略であるが、1)総力戦略は、新たに出来る市場や産業で、トップの座を目指す戦略で、そのために企業が持つすべての経営資源を投入して、市場で支配的立場をしめる行動をとる。総力戦略は失敗するとすべてを失うリスクがあるが成功すれば成果は大きい。成功のためには、明確な目標を一つ設定して、全エネルギーを集中して取り組む必要がある。この戦略は成功すればリターンの大きいイノベーションにしか使うことができないので、中小企業が採用するにはハードルが高い。
2)ゲリラ戦略は、敵の弱みあるいは手薄となっている場所を集中的に攻める戦略である。
この戦略は、市場でリーダー的な地位にある先発企業を対象とし、①創造的摸倣戦略と②起業家的柔道戦略の二つがあり、資源の少ない中小企業向きと思われる。
一番目の創造的摸倣戦略は、先発の商品(イノベーション)に付加価値をつけて模倣し、市場で評価・支持される付加価値の創造性で勝負する。この戦略は、第一の総力戦略よりもリスクが少ないので、中小企業は取り組みやすいが、市場に注目し顧客がどのようなニーズ、不満を持っているかを分析・把握することが成功のポイントになる。この戦略は、先発企業がイノベーションを生み出しながら、気が付かずに放っておいた市場、顧客を対象とするのは良い。
二番目の柔道戦略は、リーダー的な地位にある企業のスキや油断をつく戦略で、リーダー企業が相手にしない市場の一部に参入し、それを足掛かりに参入領域を広げ主流市場を侵食して行く。いわば、相手の力を利用し、スキを見て技をかけて相手を倒す戦略である。イノベーションを自らが起こすのでなく、相手がイノベーションを起こしたときに、そのイノベーションの力を利用し、相手が顧客の不満や不足と感じていることに対応しないスキを見付けて顧客が満足するイノベーションを提供し、相手に勝つ戦略である。
柔道戦略は最もリスクが少なく成功しやすいことから、中小企業が採用し易いと言える。
3)ニッチ戦略は、業界や市場には特有の構造があり、細分化すると市場規模が小さく誰も関心を持たない隙間が存在する。その中から自社の特徴や能力に見合った所を占拠するものである。
ニッチ戦略は三つあるが、これは次稿で説明する。