新家達弥
新家達弥

㈳技術知財経営支援センター 監事

「予期せぬこと」は、何故イノベーションの確実性の一番目の項目に挙げられているのか? それはこの機会が多く、これに気が付き対応できる可能性が高いからである。

「予期せぬこと」とは、1)予期せぬ成功、2)予期せぬ失敗、3)予期せぬ外部の変化、であると前稿で述べた。
「予期せぬ成功」とは、予想していなかったのに成果が出たことで、予想していなかった成功にはイノベーションの大きな機会がそこに潜んでいる。自社が前提としていた事業、市場、顧客に変化が起こり、予期しない成功が生まれたと考えられ、その変化の機会を捉えて、さらに追求して行くことが重要である。

予期しない変化が現実に起きており、成果が出ている機会を掴むことは、イノベーションを実現できる確実性が高い。
しかし、自社の前提に固守していると、この変化に気が付かないことがある。予期せぬ成功は、偶然の出来事として、当事者や周囲の関係者も気が付かずにそのまま機会を見逃がしてしまうことがある。ドラッカーは、当時ニューヨーク最大の百貨店メイシーで、主力商品が衣料であることに拘り、予期せぬ家電品の売り上げ増加の成功に注目せずに見逃して、機会を逸した事例をあげて注意を促している。

このために、予期せぬ成功は目立たせることが重要で、例えば、受注や売上げ月報の1ページ目に、伸び率の変化のグラフなどを記載して、何故かと注目と議論を促す工夫をするのが良い。この時、次の問いを行うことが重要である。

(ⅰ)この変化はなぜ起きているのか、(ⅱ)これを機会として利用することは、自社に    とって意味があるか。(ⅲ)その行き着く先はどこか。(ⅳ)機会を掴むために何を行なわな ければならないか、(ⅴ)それによって仕事の仕方はどう変わるか。

「予期せぬ失敗」とは、従来上手くいっていたことや、その延長線で誰もが成功すると思っていたことが、予想と外れて低迷したり失敗することを言う。この時、計画や実施上のミスはなく、慎重に計画して設計・実施したものが失敗した時は、何らかの要因や環境の変化が存在することで生じたと注意し、その真因を追究することで、変化に対応すべきイノベーションの機会を見付けることができる。

フォードはエドセルという新車発売で失敗をしたが、これを分析してライフスタイルの変化により市場区分が変わり、市場のニーズに適応していないことがわかり、新市場に合うサンダーバードを開発・投入することで成功に導いた。中小企業でも失敗を糧に、前述した問いを行い、機会を見付けることが重要である。

「予期せぬ外部の変化」とは、自社の事業にとっては当面の所、成功も失敗ももたらすこ とのない外部の変化や出来事をいう。このため、気が付かないこともあるが、この変化に注 目し、これを活用できないかと検討し、他社より一歩先んじて変化に対応することで、競争 環境にイノベーションを起こすことができる。IBMのパソコンの成功例が有名であるが、 一般的には、余力のある企業でないと検討はできない。経営資源が限られている中小企業で はこの変化への検討や対応を無理に行うことはないが、他社の成功例には注意しておく。    

二番目の機会である「ギャップの存在」は次回の稿で説明する。