新家達弥
新家達弥

㈳技術知財経営支援センター 監事

「ギャップ」とは、現実にあるものとあるべきものとの乖離、不一致、不調和である。何故ギャップが存在しているか分からない場合もあるが、ギャップの存在はイノベーション の機会を示す兆候である。ギャップはすでに起こった変化や起こりうる変化の兆候であり、予期せぬ事象と同じように、一つの産業、市場、プロセスの内部に存在する。
従って、この内部や周辺にいる者は、はっきりと認識することができる。即ち、この内部にいて、現場の前線で仕事をしている中小・中堅企業は早い段階で気が付くことができる。問題は、ギャップを当然のものとして受け止め、疑問を持たずに見逃すことであり、その例は多い。 

イノベーションの機会としてのギャップは、大きくは以下の 4 つに分類される。

(ⅰ)業績ギャップ

製品やサービスの需要が伸びているにも拘らず、業績がそれに比例して伸びていないという状況で、産業全体でのマクロ的な現象であることが多く、大企業は需要の増大と業績不振とのギャップを埋めるのに忙しく、イノベーションの機会として利用する対応に遅れがちで、中小の専門企業が有利と言われている。中小企業は、この時にこのギャップが生じている原因を追究するのではなく、この機会で何が出来るかを考え、行動することである。 

(ⅱ)認識ギャップ

物事を見誤たり、現実について誤った認識を持っている状況である。例えば、「メガネは視力が悪くなった人がするもの」という認識に対して、JINS は、PC やスマホからブルーライトが多く発生していることに気付き、これをカットするメガネを商品化した。眼鏡は視力矯正だけでなく、「目を守るもの」としての機能がないことに気付き、これを付加し新市場を開拓した。中小企業も業界の常識を一度見直すことを勧めたい。 

(ⅲ)価値観ギャップ

顧客が実際に持つ価値観と企業側が顧客が持っていると思い込んでいる価値観の間のギャップである。乗用車は、昔は持つことがステータスシンボルの意味合いがあり、セダンが主流であったが、現在は、その様な価値観が変わり、セダンよりも家族で利用するのに便利な、ワゴンやワンボックスタイプに価値を持つ人が多く、その機種が増えている。 中小企業の場合は、顧客の顧客である消費者の価値観の変化にも注意を払うことで、変化の先取りが可能となる。

(ⅳ)プロセス・ギャップ

仕事のプロセスにボトルネック(制約要因)があり、顧客の不便・不満に応えられていない状況である。プロセス・ギャップは、簡単には見つけられないと言われており、その世界の中にいるものだけが気が付いて利用できる。逆に言えば外部の者が気づきにくく、参入してこないので、その分野の中小企業がイノベーションの機会を先に活用することができる。 

スーパーなどのレジで顧客が購入した商品の清算処理は、昔は金額を打込みする処理のために、レジに長い行列ができ、顧客に不便・不満を与えていたが、POSレジシステムは、商品にバーコードを貼っておけば、価格の入力は不要で、商品の清算処理は早く、正確に出来るようになり、たちまち普及した例がある。 

このように身近にある顧客の不便や不満を解決するプロセスのイノベーションの機会はその現場に近い中小企業関係者が最も気づき易いのでアンテナを張っておくべきである。

第三の機会である「ニーズ」は次稿で説明する。