新家達弥
新家達弥

㈳技術知財経営支援センター 会員

クロス SWOT 分析

前稿で述べたように、クロス SWOT 分析は SWOT 分析で得た内部環境の「強みと弱み」と外部環境の「機会と脅威」を組み合わせて具体的な戦略の方向性を出すものである。以下に4つの組合せについて補足説明する。

組み合わせの中で一番重要なのが、「強み×機会」である。先に述べたように中小企業は経営資源が十分でないので、大企業のように全方位的な事業戦略をとるのは難しい。このため自社の強みを活かす戦略が重要である。それが「強み×機会」の積極化戦略で、有望なビジネスチャンスとなる機会を活かすために、自社の強みを最大限に発揮した施策を練ることが不可欠である。そのためにも戦略策定では「強み×機会」の戦略検討を第一とし、他の組合せの戦略より優先して検討してゆかねばならない。

また、戦略から更にブレークダウンした戦術やアクションも意識して検討してゆく。例えば、少子高齢化が進み、独居老人が増える市場では、子供用の高級おもちゃメーカーにとってビジネスチャンスは無いように思われるが、おもちゃに会話機能やカメラを具備することで独居老人への見守りや癒し会話機能を持たせた「可愛い孫のような癒し系見守りロボット」として提供可能であれば、高齢化は「機会」となり、強みを活かした事業展開が可能となる。

この戦略において、自社のソフト力が弱い場合は、この部分をオープンイノベーションとしてパートナーを募集・提携するという戦術を採用することで、ビジネスチャンスを捉えることが出来る。
次の組合せは、「強み×脅威」の差別化戦略である。脅威に対して自社の強みを使って影響を最小限に抑え、また回避して行く施策を考える。特に競合他社の脅威に対して、強みを活用して、優位性/差別性を確保して行く戦略を立案することが重要となる。この時留意することは「変化に関する情報」の分析である。顧客やライバル、市場の変化する情報があれば、そこに自社の優位性を確保できないか、脅威の内容の変化に対して自社の強みを活かせないかを検討する。
「弱み×機会」は改善戦略で、どの機会(ビジネスチャンス)を活かすのか、そのために弱みを改善/改良したり、強化/補強したりすることを検討する。一般には、弱みを克服するには多くの工数を必要とする場合が多く、余裕のある時に少しずつ段階的に行うことを勧める。弱みの改善が自社で困難な場合は、オープンイノベーションによる改善の選択もある。
「弱み×脅威」は防衛戦略である。脅威からくるマイナスの影響を最小限に抑え、最悪の事態に備えるための防衛策をとる戦略となる。場合によっては事業の売却や撤退も視野に置く必要がある。
以上の4つの戦略は、英語の頭文字を用いて、それぞれ SO 戦略、ST 戦略、WO 戦略、WT 戦略と略すこともあるが、自社にとって「脅威」が大きな問題となる場合は、ST 戦略、WT 戦略を優先して検討する必要がある。逆に「機会」から得られるメリットを最大化したい場合は、機会に絞った SO 戦略、WO 戦略を優先して検討を進める選択となる。いずれも自社の置かれている状況で経営トップが判断する。
一般に SWOT 分析で「強み」や「機会」などはそれぞれ複数抽出されるが、それぞれが全て組み合わせられて戦略が出来るわけではない。まず組み合わせが出来た中で、目的や目標の達成に有効な戦略を選択し、評価して優先順位をつける。この時に先に述べたように、
将来の変化という時間軸も加味しておくのが望ましい。
中小企業では同時に複数の戦略を全て実施するのは余力がないと難しい場合もあるので、数多く戦略が出た場合は、3 つ程度に絞り、優先順位に従って実行するのが良い。
また、外部環境は自社ではどうすることも出来ないが、内部環境は自社で変えることができる。その意味で、「強み」を絶えず強くしておくこと、その強みを環境の変化に対応できるものにしておくことは、一般的には弱みを強みに変えることよりも重要である。
是非、クロス SWOT 分析を、過去、現在、そして未来に渡って積み上げて、変化に対応した貴社の戦略の策定に活用して頂きたい。
進化論のダーウィンの名言「強い者、賢い者が生き残るのではない。変化できる者が生き残るのだ。」にあるように、環境の変化に対応できなければ、強みは意味をなさない。(MOTIP 新家)