新家達弥

㈳技術知財経営支援センター 会員

品質保証について

昨今の損保会社の個人情報の漏洩問題は、企業の倫理観や職業意識の欠如に繋がるものであるが、生保でも同じ問題を発生させており、この業界の組織の質の管理の劣化がかなり進んでいることを憂慮せざるを得ない。そして質の劣化が我々の身近な所まで、即ち日本社会全体に進んでいる兆候と思わざるを得ない。
 前稿に続き、品質特に製品などの物に限定しない「質」の管理に関連した先人の言葉を紹介したい。

1)品質は人質(じんしつ)である : 人の質を(ひとじち)と呼ばずに、ここでは「じんしつ」と言っている意味は、質を「しち」と読むときの意味は「約束の保証として預けておくもの」、即ちひとじちや質物(しちもつ)であるが、質を「しつ」と読むときは「中身;そのものの良否・粗密・傾向などを決めることになる性質」を意味する。品質を決めるのは人の質(しつ)である。
 品質の問題を究明して行くと根本的には製品/商品を作り/提供している組織・システムやこれを管理運営する人に遡ることがほとんどである。人の質の劣化が、システムの劣化や製品の問題を生じさせているからである。 因みに人質(ひとじち)と紛らわしいので、「品質は人の質」と覚えてほしい。特に一人ひとりの質、一人ひとりの心がけが大切であると先人は言っている。

2)経営者は逆ハインリッヒの法則に注意 : ハインリッヒの法則は、労働災害や安全管理の分野でよく知られている事故の発生についての経験則で「1:29:300の法則」とも呼ばれている。即ち、「一件の大きな事故の背後には、29の軽微な事故が隠れており、そのまた背後には300件のヒヤリハットがある」と言うものである。言い換えると「1:30の法則」と言え、約30件のヒヤリハットを放っておくと、一件の軽微な事故を産むことになり、更に軽微な事故30件に対して何もしなければ、一件の重大事故を産むことになるので注意が必要である。このように、この法則は重大事故の予防を喚起するのに使われるが、人の質の教育においては逆ハインリッヒの法則に注意が必要である。
 即ち、一人の経営者の品質軽視(無関心)は、29人の管理者の品質無関心に繋がり、それは300人の部下の品質無関心を生む。一人のトップの品質軽視は、悪いトップダウンとなって、組織を崩壊させて行き、前述した大きな事故や不正を発生させることになる。それゆえ経営トップの品質への責任は重大であり、部下の教育以上にトップ自身への教育あるいは管理者の教育を疎かにしてはいけない。
 従来は製造業や建設、医療、運輸現場など一つ間違えば重大事故になる業種において、ハインリッヒの法則は浸透されてきたが、オフィスワークの領域でも有効と言える。そのためにも、逆ハインリッヒの法則は全業種のトップが留意して行かなければならない。
 「経営危機を招くようなコンプライアンス違反の1件の重大事案の背後には、不祥事の芽となる多数のヒヤリハットが隠れている」ということや「顧客から1件のクレームが寄せられたなら、その背後には同様の不満を持っている多数の顧客が存在している」など。
違反行為や顧客の不満は「ヒヤリハット」の一つと捉える必要がある。
 ハインリッヒの法則が示す教訓は、大事故や不祥事を未然に防ぐためには、日頃から不注意・不安全な行動による小さなミス、ヒヤリハット、従業員や顧客の不満が起きないようにすることがきわめて重要であり、ヒヤリハットなどの情報をできるだけ早く把握し、的確な対策を講じることが求められる。
経営者は、是非「逆ハインリッヒの法則」も理解して、対応して欲しい。即ち、比率の数字ではなく、災害や不祥事という事象の背景には、危険有害要因や劣化要因が数多くあるということ、部下だけでなく自分自身に起因する要因もあり得ると考え、ヒヤリハットに類する情報をできるかぎり把握し、迅速、的確にその対応策を講ずることが必要である。

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