新家達弥
新家達弥

㈳技術知財経営支援センター 監事

最初の稿で述べたように、イノベーションというと発見・発明に基づく新しい知識の活用と思われがちであるが、ドラッカーはイノベーションの7つの機会では信頼性や確実性の点で最も低い位置に置いている。これは、知識によるイノベーションは、実を結ぶまでのリードタイムが長い、失敗の確率も高い、不確実性や実用化までの付随する問題がある、などリスクが大きく他のイノベーションと異なっているためである。

一つの発明の後ろには100の失敗があると言われるように、実用化までのリードタイムの長さに耐える企業体力や資金力が不可欠であり、中小企業が知識のイノベーションの機会を自社のみで掴むのは困難な場合が多い。また、一つの知識だけでは実現が難しく、科学や技術以外の知識を含め、いくつかの異なる知識の結合が必要とされることが多い。そのため中小企業は、新しい知識でのイノベーションを行う場合は充分留意して実施する必要がある。最初の稿で紹介したオープンイノベーションなど大学や他の研究機関の知識を活用する戦略は検討する価値がある。

知識によるイノベーションでは必要な知識のすべてが用意されない限り、成功は難しく、以下の三つの特有の条件を必要としている。

一つ目は、分析の必要性で、知識そのものに加えて、社会、経済、認識の変化などすべての要因を分析する必要がある。企業はその分析によって、イノベーションの成功のためにはいかなる要因が欠落しているかを把握し、自社または他社からそれを補うか、イノベーションを延期するか判断しなければならない。

二つ目は、戦略の必要性で、新知識のイノベーションは大きな反響を呼び、注目を浴びることが多いが、スタートで失敗すると二度とチャンスがない。そのために三つの戦略のどれかを持つことが必要である。
① システム全体を自から開発し、それをすべて手に入れる戦略(例:ポラロイドカメラ)
② システム全体ではなく市場だけを確保する戦略(例:デュポンはナイロン市場を創造)
③ 戦略的に重要な能力に力を集中し、重点を占領する戦略(例:インテルのCPU)

なお、戦略を持たないことや二つ以上の戦略を持つことは大きなリスクを持つことになるので、避けた方が賢明である。

三つ目は、マネジメントの必要性で、知識によるイノベーションはリスクが大きいだけに、マネジメントと財務についての先見性を持ち、市場中心、市場志向であることが重要である。 特に顧客にとっての価値より技術的な価値に囚われることの無いようにマネジメントすることが必要である。

このようなことから、本稿では中小企業に、第七の機会については特に勧めることはない。 勿論、顧客の立場に立ったアイデアで成功した事例も多くある。顧客にとって嬉しいと思われるアイデアを試すことで「Win-Win」となるのであれば、小さく始めることがよい。

以上で、「イノベーションの7つの機会」の説明は終了する。

「機会」の中には中小企業では対応しにくいものもあるが、自社を取り巻く環境の中で、自社の強みを発揮し「機会」を活用され、発展されることを祈念する。