新家達弥
新家達弥

㈳技術知財経営支援センター 監事

「必要は発明に母」と言われている。前稿の予期せぬことやギャップは、すでに存在するイノベーションの機会であるが、まだ具体化していないニーズは、まさに「イノベーションの母」と言える。しかしここでのニーズは、漠然としたニーズではなく、企業や産業の内部に存在する具体的なものである。

その主なものは、①プロセス上のニーズ、②労働力上のニーズ、③知識上のニーズであるが、いずれも状況からでなく、課題から発見できる。

① プロセス・ニーズでは、どこかのプロセスに欠陥や非効率などが隠れており、その解決によりイノベーションが起きると直ちに受け入れられるものである。例えば、前稿のレジでの行列解消ニーズもこれに該当する。また日本の道路事情は狭く曲がりくねっており、自動車事故が多かったが、あらゆる方向からの光を反射する視線誘導標ができたことで、事故を大幅減少した例も同様である。この様に課題解決のニーズは昔から存在していたと思われるがそれに気づき、イノベーションを起こすところまで実行することが重要である。プロセス・ニーズはそのプロセスの関係者は気が付きやすので、感度の高いアンテナを持つ中小企業にチャンスがある。

② 労働力ニーズでは、労働力の需給の著しい変化の過程に機会が隠れている。ロボットは少子化による製造業の人手不足から急激に普及した。これは、特に日本は欧米より早く少子化が始まり、労働不足対策としてロボット化のイノベーションが先行し、ロボット先進国になったといわれている。高機能なロボットではなく、安価でコンパクトなロボットや周辺の省力化機器の開発では中小企業の出番があり、その分野に参入して成功した例がある。近年は間接業務のロボット化ニーズが高く、IT技術を持つベンチャー企業はこの分野に参入し、イノベーションを起こす機会がある。

③ 知識ニーズとは、「研究開発」を目的としたニーズで、必要とされる知識の欠落に機会が隠れている。但し知識のニーズを満たすには知的な発見、発明が必要である。この機会を捉えるには研究開発の資源が必要とされるので、中小企業の対応は制約される場合がある。

中小企業にチャンスのある「プロセス・ニーズ」に基づくイノベーションを成功させるには、ドラッカーは、以下の三つの条件が必要としている。三つの条件は、
ⅰ)何がニーズであるかが明確に理解されている事、目標の達成のために何が必要なのかが明らかである事、
ⅱ)イノベーションに必要な知識が現在の科学技術で手に入り、検討できる事、
ⅲ)得られた解決策がそれを使うはずの人の仕事の方法や価値観に一致している事、すなわち、解決策が分かりやすく、易しく使いこなせることである。難しく使いこなすのが大変なものは受け入れられない。

上記のように、ニーズに対応する製品やシステムの開発では本当の顧客は誰で、どんなニーズを持っているか、そのニーズを解決する手段を簡単に提供出来るか、それが顧客にとって価値があるかということをもう一度振り返ることで、真剣に検討する中小企業は課題を解決するイノベーションの機会を掴むことができる。

第四の機会である「産業と市場の構造変化」は次稿で説明する。