認識に変化とは、社会観、価値観、文化の変化と言える。認識の変化は定性的なこともあり、定量的に把握できる人口構成の変化より信頼性や確実性は相対的に低いという特徴を持っている。そしてこの変化は一時的であるか永続的であるかの見極めが難しいので、この変化に基づくイノベーションは、最初は小規模に、且つ具体的に始めることが肝要である。しかし、これをチャンスとして捉え大きなイノベーションを起こす可能性もある。
ドラッカーは、認識の変化についてコップに入っている水を引き合いに出している。即ち、世の中の認識が、コップの水が「まだ半分入っている」と見ることから、「もう半分しかな い」と見ることに変わった時が、認識の変化起き、イノベーションの機会が生まれる。この認識の違いが行動の違いとなり、新しい文化やライフスタイルを生み出し、社会を変えてゆくことで新しい消費、市場が生まれる。
認識の変化は定量化されたものではなく、また実体も掴みにくい。変化が定量化されたとしてもそのときは、イノベーションの機会とするには間に合わない。このため、機会を見つけるには、行動の変化を見つけることであるが、一時的変化か否かを見極めるには、年単位の時間軸が必要なことが多い。そのために、どの時期に認識が変化したかを正確に把握でき難いと考えた方がよい。
しかし、他社がまだ把握していないタイミングでうまくとらえることで大きなイノベーションを起こすことが可能なる。この時、取り組みが早過ぎても、遅すぎても、イノベーションは期待できなく、タイミングを見極めるのが最も重要と言われている。
認識の変化のイノベーションの例として、アメリカでの健康意識の変化がある。アメリカ人の肥満問題から健康ノイローゼが生まれ、健康と体形に関する異常な関心が増大し、これに気付いた出版関係者は、健康雑誌を創刊し、二年で 100 万部に達するまでになった。また健康食品チェーンも生まれ高収益を誇り、ジョギング用品も大きな産業となった。
日本への観光客(特に中国からの観光客)についても、従来は爆買いに代表されるモノの購入が目的であったものが、最近はコト(サービス・体験等)に関心のある旅行者が多いことに気付いて、体験型のツアーを企画した観光業者が伸びている。これも価値観の変化が生じている機会を捉えた事業展開例である。
いずれも、イノベーションを行う場所に近いところにいて、認識の変化に伴う行動の変化に敏感であることが成功要因であるので、中小企業であっても顧客の価値観や社会観などの認識の変化には、日頃から関心を持つことが欠かせない。
しかし、冒頭で述べたように、認識の変化は不確定の要素があるので、このイノベーションは実行する場合も小さく始めることが肝要である。
第七の機会である「新しい知識の出現」は次稿で説明する。