新家達弥

㈳技術知財経営支援センター 会員

品質経営について

 前稿で経営関係者こそ品質に関心を持つ必要があり、トップの品質に係る強い意志がなければ品質の維持向上は実現できないと述べた。なおここでの「品質」は前稿の「質」と同一の意味として理解頂きたい。
 経営では、モノ/製品の品質、人の質、経営の質を追求する所謂「品質経営」がより重要になってきている。
 経営者にとっては、特に組織運営の質である「経営の質」と「人の質」に責任を持つ必要があるが、以下に経営に関する先人の言葉を紹介する。

1.企業は、より大きくなる必要はないが、不断に、より良くならねばならない (ドラッガー)
 企業として、厳しい経営環境の中で生き残るためには、上記の品質経営は欠かせない。即ち、自社製品のモノの品質、組織を構成する人の質、そして経営マネジメントの質をより向上させることが重要であるとドラッガーは説いている。ドラッガーは「強みの上に組織を築け」と力説しているが、正に上記三つの「質」を強みとなるように向上させてゆくことが品質経営と言える。「業界で一番規模が大きい会社が一番儲かっているとは限らない」時代になっており、企業は維持存続のための利益を生み出し、組織として永続できることが重要となっている。このためにも、自社の強みを把握し、三つの質を高める経営が求められている。
 日本では、日本科学技術連盟が、品質経営の研究会を立ち上げ推進している。ここでは、製品やサービスに、顧客一人ひとりの期待に応える高品質な価値を盛り込む企業の経営を、「品質経営」と呼び、「顧客価値創造」をキーワードとしている。これからは、製造業の企業も、生産した製品が、あらかじめ決められた基準を満たすことを確認して品質を宣伝していたことから、品質を製品やサービスの中に作り込み、顧客にとって価値のあるものに仕上げて保証し売上の向上を図ってゆく時代になっていると言える。
キーワードも品質管理から品質保証になっている。

2.品質経営とは、「4S」を実現する経営である
 前稿のその1で、品質経営についての先人の言葉を載せた。日本科学技術連盟の品質経営の狙いと合致している。前稿での4Sとは、CS:Customer Satisfaction (顧客から評価される経営)、ES:Employee Satisfaction (従業員モラルが高揚する経営)、SS:Social/Stakeholders Satisfaction (社会と共生する経営)、GS:Global Satisfaction (地球環境に優しい経営) である。
 昔の近江商人の代表的言葉である「三方良し;売り手よし、買い手よし、世間よし」は上記の「3S」を言っているとも見なせ、これに更に全世界の課題である「GS」が加わって4Sになっていると考えられる。近江商人の商売十訓には「商売は世の為、人の為の奉仕にして、利益はその当然の報酬なり」という言葉もあり、現代でも経営の格言として有効である。
 なお、ドラッガーは、会社が成長しているかどうかは何でわかるのかというと、それは、生産性が上がっているかどうかでわかると言っている。「働く人が自発的にやる気を起こし、創意工夫したいと思える組織運営を確立する」のがリーダーの役割の一つで、品質経営に直結する。

3.安全と信頼(品質)無くして、事業なし
 総合電機メーカーの幹部の座右の銘であるが、このように企業幹部は信念を持ち経営を行うことが重要である。その幹部は、安全を最優先とし、経営判断基準は「 安全 /信頼>>法令 > 品質 > 納期 > コスト 」が自分の判断基準とも言っている。
 ヤマト運輸の創業者の言葉にも、「安全第一、営業第二」を「信頼第一、営業第二」に変えて経営方針とし、お客様に信頼される会社を目指すことで営業成績も向上したと述べている。

4.企業はジェット機と同じ
 ジェット機はエンジン(事業の改善・改革)を回し続けないと墜落する。経営者は飛び続けるためには、エンジン(事業の改善・改革)を回し続け、燃料(収益)を安定供給する責任がある。
 近江商人の十訓にあるように「商売は、世の為、人の為の奉仕にして、利益はその当然の報酬なり」の心構えは不変と考えて企業の収益を創り出すのが経営者の責務である。

 最後に、品質月間川柳の一部を紹介する。
品質月間川柳:「不良品 隠す手間より 防ぐ知恵;ベン・ケーシー」、「品質は 一度の不正で 水の泡;不正あるある」。
2023年度の優秀作品の一部であるが、こういう川柳が出ないように経営者に期待したい。「品質を 見える化したが 見てるだけ;品質良好」、品質の経営マネジメントはPDCAを実践しなければ成果は期待できない。 

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