品質保証について
近年、日本の品質は劣化してきたという言葉を耳にする。新聞紙上の記事でも、自動車会社の型式認証の不正や製薬会社のサプリメントの健康被害案件への対応など品質管理体制の不備などが目につく。
型式認証不正は、自動車会社の製品安全に関する品質管理を大きく棄損するできごとであった。またサプリの問題は、薬ではないサプリメント(栄養補助食品)を「機能性表示食品」と銘打ってあたかも薬と同じ効用があるかの如く販売し、健康被害を発生させたこと、その後の対応が不適切であったことが問題のようである。類似した食品に「トクホ:特定保健用食品」があるが、これは国による審査を受けなければならないのに対して「機能性表示食品は」国による審査がなく、報告書だけを出せば商品として発売できる。薬と同じ成分を混ぜれば効能はでるが、薬は薬事法に従って副作用などの検証も行っている。薬と同じ成分を混ぜてあるならば、副作用による健康被害がないかなどの事前検証が必要であろう。新聞の記事をみるとこの検証も十分行っていない可能性があり、品質管理体制の不備や経営トップ層の品質管理に対する甘さを指摘されても致し方がない。
この状況に接し、品質管理に対する先人の言葉を思い出したので三つ紹介したい。
1.TQMはT2QMである。
TQMは「Total Quality Management」の略で、全社的品質管理または総合的品質管理として企業経営者では常識の言葉である。JSQCの定義では、「品質/質を中核に、顧客及び社会のニーズを満たす製品・サービスの提供と、働く人々の満足を通した組織の長期的な成功を目的とし、プロセス及びシステムの維持向上、改善及び革新を全部門・全階層の参加を得て様々な手法を駆使して行うことで、経営環境の変化の適した効果的かつ効率的な組織運営を実現する活動」とある。即ち三つの質;顧客の満足、社会の満足、働く人の満足を達成する組織運営を行う事であり、経営トップがTQMを率先して推進し、品証部門が実践してゆく役割を持っているが、それが劣化してきているのが現在問題を発生している原因である。そのために、T2QMでのT2 が意味する所は、経営トップ(Top)がTQMを管理出来ていなければ成功しないことを意味している。組織のリーダーたる経営トップの役割は大きく、経営トップはTQMは品証部門の活動と思ってはいけない。
2.品質を管理する品証部門は会社の第三者チェック機関である。
第三者チェック機関と言うことは、ラインから独立した組織でなければならない。経営者に忖度した品質の管理では、品質管理の信頼性が劣化する危惧が生じる。サプリの健康被害の問題も品証部門が本来あるべき役割を行っていれば、もっと早めに対処できたのではないか。
ある会社で聞いた話では、「事故/不正を起こす部門は犯罪者であり、品証部門は犯罪を取り締まる会社の警察として事故の原因究明や犯罪部門の是正を行う役割がある。しかし、もっと重要なのは従業員を犯罪者にしないこと、未然防止、再発防止をきちんと行う事、そして会社の外に被害を及ぼさないようにするのがミッションである。」とのことである。正にその会社では品証部門は第三者チェック機関である。
第三者チェック機関の活動には経営者は支援をしても干渉しないのがあるべき姿であろう。その会社の工場では品質管理に関しては品証部長の権限が強く、品証部長がOKを出さないと、工場長がGOを出しても製品を出荷できないとの事であった。品証部門の役割は重要で、見据えているのは顧客の安心・安全であり、それが会社の信頼を高めることになる。
3.品質経営とは、「4S」を実現する経営である。 4Sとは、
CS:Customer Satisfaction (顧客から評価される経営)、
ES:Employee Satisfaction (従業員モラルが高揚する経営)
SS:Social/Stakeholders Satisfaction (社会と共生する経営)
GS:Global Satisfaction (地球環境に優しい経営)
である。
上記三つの先人の言葉は、すぐに実践するのは難しいところもあると思われるが、一つの見識であり、品質管理に関与する人が心に止めておきたい言葉である。
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