新家達弥

㈳技術知財経営支援センター 会員

価値づくり力とは

 

 前稿でモノづくり力のある企業は「価値づくり力」を鍛えて、「モノづくり力」との両輪で、その強みを活かすビジネスモデルを構築して頂きたいと述べたが、「価値づくり力」とは何か? どのように構築して行くのかという質問が出てくる。
 日本の企業が低迷しているのは、「モノづくり力」を鍛える経営に固守しすぎたため、品質や性能で他社に差をつける事に捉われ、顧客が必要あるいは評価していない過剰な品質や性能の開発競争、横並びの製品性能の品ぞろえ、ひいては価格競争に陥ってしまったといわれている。
 高品質や高性能製品にはそれなりのコストがかかっており、価格競争で利益が出せない状況では企業経営も厳しくなる。
価値づくりに必要な要素は何か? 主なものとして二つ挙げられている。一つは企業の独自性の高い商品づくり、所謂他社差別化であり、もう一つは顧客が喜んで購入する価値を有する「意味的価値」づくりである。
 世の中には、他社と比較して性能的に同等であっても、高い価格/価値を維持している製品がある。そこに共通したものは、独自性の高い商品を作り続ける組織能力や機能的価値より意味的価値を高める「価値づくり力」を構築した経営戦略が存在している。
 意味的価値の高い製品のためには、価値づくり経営がなされていなければならない。即ち価値の高い製品を作り出す技術 プロセスの構築とそれを支える組織運営である。また意味的価値を創るために、顧客の事を良く知らねばならない。潜在的な顧客のニーズやソリューションを知る、あるいは掘り起こし、価値を創造する能力が必要である。
 ではこれらの能力をどう構築して行くのか? どのように新しいビジネスモデルを構築して行くのか?
 参考になるのは以前の稿で述べた「ビジネスモデルの再構築のアプローチ」である。
即ち、三つのアプローチの中から自社に合うものを検討するのが良い。そしてその前提として他社と差別化できる技術力やマーケティング力が備わっていることが必要である。
 一般的には日本の企業は、モノづくり力はあるがマーケティング力は弱いと言われているが、顧客の事を良く知ろうと努力をしている企業は多い。その努力をすることがマーケティングである。そして顧客が求めているものに対応すべく、クロスSWOT分析などで自社の強み 弱みを明確にした上で、これらを強化あるいは市場の機会に見合った顧客の評価する価値(意味的価値)づくりをして行くことが求められる。
ここで、顧客価値づくりに取り組むにあたっては、ドラッガーの「顧客の創造」が参考になる。
ドラッガーは、「顧客の創造」とは、【消費者にとっての価値は何なのかを掘り下げ、消費者の欲求を満たす手段として製品やサービスを提供すること】であるといっている。そして、「顧客の創造」を具体的に行うための6 つの問いかけをしている。即ち、
 1.「顧客は誰か、どこにいるか」
 2.「顧客にとっての価値は何か」
 3.「われわれの事業は何か」
 4.「現在の消費者が満たされていない欲求は何か」
 5.「われわれの事業は何であるべきか」
 6.「既存の製品・サービス・流通チャネルが今日の社会構造に適合しているか。合っていないならば、それらのものをいかにして廃棄すか」
 この問いかけに答えることが、正にマーケティングであり、そして顧客価値づくりに繋がっており、「価値づくり力」を構築する経営戦略にも繋がっている。重要なのは顧客が求めている価値が何かを見出すことで、これにより企業は「顧客の創造」を実現し、顧客が評価する価値づくり力を強化できる。

 (MOTIP 新家;nt-pro.office@ja3.so-net.ne.jp)