競合特許をSDI(Selective Dissemination of Information)で監視していると、業界としてはずいぶんと基本的な技術に思える特許を発見することがあります。この特許を注意特許として関係者に配信すると「こんなものが特許になるのかね、当たり前のことじゃないか」という反応が、たいていの場合は返ってきます。
知的財産部にいたときに先輩知財員によく言われたのが「当たり前の特許が一番いやな特許」という言葉です。技術者と話をしていると「こんなのは当たり前だから」という言葉をよく聞きます。例えば、競合特許などについても、公開特許を注意特許として技術者に回覧しても「こんなのは当たり前の技術だから特許にならないので、ほっておいていい。」という回答が返ってきます。しかし、何年かするとその特許は登録となり、その技術者は「何とかしてほしい(泣)」と泣きついてきます。私は、「前のあなたのあの言葉はなんだったの!?」と腹の中では毒づきながら「対応策をいっしょに検討しましょう!」と応答するのです(笑)
どうしてこんなことが起きてしまうのでしょうか。「こんなのは当たり前の技術だから」と言っている技術者に「では、その技術の記載されている文献を見せてください」と言っても、文献が出てきたためしはありません。技術者曰く「業界の常識だから」「昔からこの技術を使っているから」だから「当たり前すぎて文献に載らない」ということのようです。つまり、技術として文字になっているものを探すのが難しい、またはできない、そういう技術は特許になってしまうことがあります。
特許庁の審査官の立場になって考えましょう。特許庁の審査官は、新しい発明=特許、を手にしたときに、先に利用されていた技術を調べます。この場合、特許、学術論文、書籍などから類似した技術がないか探します。しかし、文献として探しきれないときには、特許査定せざるを得ないのです。つまり、文献などによる特許拒絶の論理だてができない新しい発明は特許にすることになっているのです。
このように、当たり前だから、と言い切る前に「これが特許だったらすごいことになるよね」という目でその技術を見てください。いやいや、やっぱりこれは当たり前の技術だから、というのなら、その技術が載っている文献を探してみてください。
この時に「これに載っているから」と渡された文献を見ていくと「全部は載っていないよね」ということが、これまたよくあります。つまり、ここにも「当たり前だから」という考えが潜んでいるのです。特許の請求項は、先のコラムでも説明したようにオールエレメントルールです。すべての技術要素がその文献に載っていますか?という形で論理付けしないといけないのです。(通常は主の文献と従の文献の2つにすべてが記載されているかを見ます)例えば「部屋にダクトがあってダンパーがついているのが当たり前だから」「化学的な変質層が深さ方向に2段階になっているのは昔からやっているから」とは言っても、請求項の技術要素が、主と従の文献にすべて記載されていなければ「論理的に特許になりませんよ」と論破できないのです。
当たり前だから、という前に、どうしたら特許にできるんだろう、というコロンブスの卵的な発想をしてみてはいかがでしょうか?誰から見ても当たり前で、文献や資料にいっぱい載っている技術は特許とすることはできませんが、あなたが苦労して設計したモノ、開発したモノはどこかに特許とできるネタがあるはずです。当たり前の技術と自分の考えた技術を比較してみてください。そこに差があれば特許となる可能性があります。