新家達弥

㈳技術知財経営支援センター 会員

品質保証について

 ネットで品質の不祥事に関するものを検索すると実に多い。例えば、最近では、J貨物会社が輪軸組立作業で検査不正と検査データの改ざん、舶用エンジン関係でも不正をしたH造船子会社が検査で実際と違う値が出る装置を使用、T自動車会社で新たに7車種の不正が発覚し国交省が是正命令、I子会社でエンジン試運転のデータを4000台以上改ざんし約半数が仕様未達、Pインダストリーの品質不正で新たに55品番での不正行為が発覚などなど。
 日本だけでなく世界で見ても不祥事は多く、品質や人の質の問題は永遠の課題と思われる。
 前稿に続き、品質や「質」の管理や実践に関連した先人の言葉を紹介したい。

1)品質はただでは生まれない:品質を維持あるいは向上して行くことはそれなりの取り組みや努力が必要である。品質のための技術・人・設備への積極投資がなければ、維持/向上はできない。何もしないで品質が良くなることはない。イギリスのラスキンも「品質は偶然の出来事ではない。つねに知的努力の結果である」と言っている。
2)品質は自己満足ではない。品質はお客様の評価である:製品の性能や機能の試験結果は定量的に把握できることから、良い試験結果を出して合格と評価し組織として自社の製品やサービスの品質が良いと自己満足しがちである。しかし貴社の品質が良いと評価するのは最終的にはお客様である。
 自社満足しても顧客満足が得られなければその製品・サービスの品質は合格とは言えない。製品の品質を管理するだけでは不十分で、お客様は品質の保証まで求めている。
3)品質と誠意は同義語である:事故時の対応が大切である。不具合、不正等が生じた時に誠実に対応する、そのことが会社の品質を表している。某薬品会社のサプリメントでの健康被害も誠実に対処していればと悔やまれる。アメリカの自動車王と言われたヘンリーフォードは「品質とは、誰も見ていない時にきちんとやることである」と言っている。
4)「百聞は一見に如かず、百見は一触に如かず、百触は一作に如かず、百作は一操に如かず」:3現主義と同じ意味でもある。即ち、百聞より現地・現物・現状を自分自身の目で実際に見る事が大事である。また百回見るより一回現物に触れてみる事、更に百回触れてみるより一つでも作ってみる事、百回作ってみることより実物を一回操作・使用してみる事が大事であると先人は説いている。
 トヨタの幹部の言葉に「百聞は一見にしかず、百見は一行にしかず」「者に聞くな、物に聞け」という言葉がある。「人はうそを言うことがあるが、物は何も言わないがうそは言わない」だから自分自身で良く見て判断し、声なき声を聴かなければならない。

 「品質管理があって、何故人質(じんしつ)管理がないのか?という素朴な疑問を生じる。これからは、製品そのものの品質管理ではなく人の質の管理が重要である。」 品質保証部門で、事故や不祥事を扱っていた先人の独り言である。以上の先人の言葉から、前稿で述べた人の質がキーワードであると言える。これからは品質管理/保障は人質(じんしつ)管理、人質(じんしつ)保証と考えたい。

 JIS Z 8101 によると、品質管理とは「買い手の要求に合致した品質の品物やサービスを経済的に作り出すための手段の体系」、品質保証は「消費者の要求する品質が十分に満されることを保証するために,生産者が行なう体系的活動」と定義されている。
これからは、総合的品質マネジメント(TQM)が重要で、品質関連の学会などでも、物の品質管理でなく「質の管理」という言葉が多くなっている。
 そのためにも、愚直に質の維持・向上に取り組むことが大切である。その意味で、先人の言葉の「ABC」は、「ABC+D」に進化させてゆく必要がある。

5)ABC+D:ABCの「当たり前のことを、馬鹿にしないで、ちゃんとやる」は皆知っていることであるが、これを実践してゆくことは「言うは易く行うは難し」である。愚直にABCを続ける文化/企業風土を構築することが重要である。もし、ABCを実践していると自慢しているのであれば、更にDをプラスして、「できるまで」あるいは「どこまでも」を行っているかを自問自答して欲しい。似たものとして、ニデック永守氏のSKD;「すぐやる、かならずやる、できるまでやる。」がある。

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