黒田 雄一
黒田 雄一

㈳技術知財経営支援センター 代表理事

産業用大型車メーカーのH自動車は、約20年にわたり排ガス等のデータを不正に取得して提出していた問題に対し、2022年8月初めに外部有識者からなる特別調査委員会による調査報告書を公表した。これは大・中型トラックの排ガス・燃費試験におけるデータ改ざん等の事実を報告したものだが、その後に国交省の調査で小型トラックでも同種の問題が発覚したため状況は更に深刻になっており、生産停止等による経営への打撃が大きいものと推測される。

 近年H自動車に限らず、大手企業による品質不正事件が次々と明らかにされている。例えばN自動車は、1990年代から無資格者による完成検査を続けていたことが発覚した。SB自動車やSZ自動車でも同様に、国の基準を逸脱した検査不正が発覚した。M電機は、電磁開閉器の非認証部品の使用、鉄道車両向け装置試験の不正をはじめ、各地の製作所における一連の不正を公表した。K製鋼、Mマテリアルのような素材メーカーでも、例えば顧客仕様を満たさない製品の検査結果について満たす数値に改ざんしたり、実際に測定が行われていないにもかかわらず測定したかのように試験結果をねつ造したりする行為があったことが公表された。医薬品業界では、2021年にジェネリック医薬品2社が承認書から逸脱した不正な製造を行ったとして業務停止命令を受けた。

 これらの重大な不正事案は大企業によるものだが、背景には企業規模の大小を問わず検証すべき問題点が潜んでいる。例えばN自動車の調査報告は、完成検査員の人手不足、手続を定めた基準書と現場の実態の乖離、管理職が現場の実情を把握していないこと等を挙げている。M電機の調査報告は、[品質に実質的には問題ない」ことを理由に、検査規定の軽視を正当化する風潮があったと指摘している。H自動車の調査報告は、開発のプロセスを次に進めるかどうかの判定が組織的というより属人的に行われていたことや、走行性能や安全性だけでなく「環境性能」が不可欠として求められる時代が来たという認識が不足していたことを指摘している。

 これらの事案から窺えるのは、営業や管理部門からの納期とコストのプレッシャーを受け続ける現場では、定型化された品質保証の手続を形式的なものとして軽視し、目の前の都合や属人的な勘・経験を優先しがちとなる現実である。企業によっては、遅くとも1990年代から大きな事故等もなく品質不正を続けてきたことがわかっている。「品質に問題がない品質不正」という奇妙な状態が続いていたのだが、その時代に世界を席巻した各社の製品が、実のところ客観的な検査基準を満たすことよりも熟練者の技倆と勘と経験で出来映えが決まり、ユーザーにも評価されて社会的に受け入れられていたのかもしれない。あるいはまた、検査基準そのものが過剰品質を求めたり、形式主義的な書類であったりした可能性もある。その一方で1990年代以降の米欧各国では、企業を含む社会活動における法令遵守の徹底(いわゆる「コンプライアンス」)が求められるようになってきた。更に2001年のエンロン事件等を契機として、企業経営における倫理観が重視されるようになり、ほぼ時を同じくして、企業の価値を経済的利益だけでなく社会貢献や環境負荷の低減という面からも評価するという考え方が世界的に浸透してきた。日本も例外でなく、技術の領域も例外ではなくなったので、近年になって過去の品質不正が次々とあぶり出されているように見える。個人としての技術者も、技術を通して製品やサービスを提供している大企業も中堅中小企業も、これまでの仕事のやり方、経営のあり方がコンプライアンスの時代に適合するのか、再考を迫られている。 黒田雄一