第3回:現場を巻き込み、具体的な行動につなぐ
1)動機付け
少し苦い経験をご紹介したい。私は環境部門の責任者として、理想を掲げ、業界のトップを走るつもりで、全社員、全部門に対して環境配慮の取組を要請し、提案を行った。ところが、現場の反応は総じて厳しいもので、冷静に振り返ると、思い先行の独りよがりであったと言わざるを得ない。
現場に環境取組を提案した時に、現場が懸念するトレードオフ事項を図1に挙げた。設計部門が設計や材料の変更を行おうとすると、性能確認はもとより、耐久性や耐衝撃性など幅広い評価試験が必要になる。同様に、製造部門が製造条件を変更するには品質確認を行い、場合によっては調達先の現場監査が必要になる。
さらに部品、材料メーカーであれば、製造条件変更として納入先の監査や承認が必要になる。
そのため、モノづくりの現場からすれば、順調に生産していて、QCD(品質・コスト・納期)も確保できている原材料や工程を、リスクを冒してまで変更する必要があるのかと保守的になるのは十分理解できる。
だからこそ動機付けが重要となる。なぜ環境取組をするのか、特に、5年、10年後、環境取組を進めた時のビジネス機会の拡大と反対に環境取組をしなかった時のリスクの大きさを丁寧に説明し、合意形成していかねばならない。
![]() 図1.環境取組で現場が懸念するトレードオフ事項 |
2)仕組みづくり
動機付けができたら、次は推進のための仕組みづくりである。この仕組みがないと、取組みが自然消滅したり、担当した責任者によってコロコロ変わって、現場が混乱するリスクがある。
仕組みの中でも、まずは推進体制の構築である。上でも述べたように、環境取組は濃淡があっても全部門が関わるため、全社横断的な推進体制が必要である。多面的な観点から課題を抽出できれば、より効果的、効率的な取組が期待できるし、得られた成果もスピーディに全社展開できる。既にISO14001等の体制があれば、新たに体制を構築するのではなくその見直しが合理的だと考える。
また、単に集計結果の「管理」ではなく、積極的に改善・改革を「推進」できる体制とメンバー選出が重要である。そのため、推進の第一線となる現場の参加と活動を支援する経営層の関与が必須である。図2にイメージを示す。
![]() 図2.環境推進委員会のイメージ |
次は推進体制を機能させるためのルールの制定である。役割と権限を明確にし、どのようにPDCAサイクルを回していくかを規定するものである。組織は事業を取り巻く状況に応じて変化し、また責任者も異動するが、ルールによって取組の継続性は維持される。ルールが正しく運用されているかどうか、定期的に内部監査ができれば理想的である。
そして、その運用のための経営資源(ヒト・モノ・カネ)の投入を忘れてはならない。一時の思いや勢いだけで始めても、現場は負担感が高まり、息切れを起こして、頓挫することが容易に予想される。また、推進のカギとなるのは人材である。OJTを通じて環境マインドを持った人材を育て、ローテーションで各部門に配置できれば企業内のすそ野は間違いなく拡大する。
(MOT-IP 田脇;y.tawaki@nifty.com)